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【ゆるゆる言語学】琉球方言は、本当に「方言」なのか?【日本語って特殊で不思議】
早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒業。雑誌の自主制作やクリエイターチームの結成などを行い、Web制作会社にディレクターとして入社。その後、フリーランスのディレクター・イラストレーターを経て、オウンドメディアのライター・コンテンツディレクターとなる。現在はマルチクリエイターとして活動中。
世界の言語には、それぞれ地方によって「方言」が存在するが、日本語ももちろん例外ではない。有名な方言でいえば「関西弁」「博多弁」「東北弁」などが挙げられるだろう。
これらの方言は次第に「標準語」に溶け込んでいってしまっているが、その「標準語」と明確な違いがあるにも関わらず、すぐに「日本語」であると理解することができる。
しかし、沖縄周辺で使われていた「琉球方言」は、その他の「方言」とは一線を画すほど「標準語」からかけ離れている。
この記事では、そんな「琉球方言」について解説していく。
目次
そもそも「方言」とは?
琉球方言の話に入る前に、前提の知識としてそもそも「方言」とは何か、について知っておく必要がある。
以下では「方言」の定義や「言語」との違いについて簡単に紹介していく。
ある地域で発達した独特な表現
「方言」とは、簡潔にいえば「他の地域とは異なる、ある地域にみられる言語体系」のことを指す。
より噛み砕いていえば、「ある地域で発達した独特な言語表現」と言えるだろう。
同じ国の中でも地域によって構成される集団に違いが生じるため、それに伴い言語も独特な表現が生まれる、というわけだ。
日本で最もメジャーな「方言」といえば「関西弁」かと思われるが、「〜やねん」といったような表現はお笑い番組などを見ていると日常的に聞く機会があるだろう。
「言語」と「方言」の違いって?
それでは「言語」と「方言」の違いとは何なのだろうか。
「スペイン語」と「ポルトガル語」は「方言」と言えるほどの違いしかない、と言われることも多いが、それぞれ「別の言語」として扱われている。
「方言」には核となる「母語」が存在し、その「母語」で会話した時にお互いの意思疎通ができれば、異なる言葉を話していてもそれが「方言」であると言える。
しかし、これも「言語」同士の境界が曖昧だったりするため、核となる「母語」が存在しない(厳密には近いルーツがあるが)「スペイン語」と「ポルトガル語」は、独立した言語と言えるのだ。
なので、理論的にいえば琉球方言を話す人と、標準語を話す人は意思疎通が可能なのだ。
沖縄の方言「琉球方言」について
話を沖縄の「琉球方言」に戻し、以下でその概要や具体的な単語などについて紹介していく。
特に単語をみると、「これが本当に方言なの?」と疑ってしまうかもしれないがれっきとした「方言」なのである。
それでは、みていこう。
「琉球方言」とは?
「琉球方言」とは沖縄県を中心に話されている(現在の話者はごくわずか)日本語の方言のひとつであり、古代日本語と近いルーツをもつ「琉球諸語」として研究されている言語体系だ。
「方言」か「別の言語」か、といった議論は今なおされているが、「方言」とする見方が強いため、この記事では「琉球方言」として扱うこととする。
しかし、「琉球方言」として扱った場合でも、日本語の観点からみると「琉球方言」と「本土方言」に二分される、という見解もあり、それほど「琉球方言」は本土の言葉との乖離が大きいと言える。
1879年に「沖縄県」が設置されてから、標準語普及運動が盛んに行われ、徐々に「琉球方言」の話者は少なくなっていった。
現在は一部の高齢者しか使用せず、その使用頻度も低いとされている。
「琉球方言」の言葉を紹介
では、実際に「琉球方言」の単語や表現を一部みていこう。
このように、一部を表にして本土の標準語と比べてみても「琉球方言」がどれだけ独特なものかわかるだろう。
中には「しらんっちゅ」のように、多少意味が通じそうなものもあるが、大半の語句は意味を説明してもらわない限り、理解できないだろう。
これが「琉球方言」の異質性であり、「別の言語」と捉えられる要因にもなっている。
この他にも、数多くの単語や表現が標準語とは似ても似つかないものになっているので、気になった方は調べてみることをおすすめする。
「日本語」と「琉球方言」の違いについて
ここまで、「琉球方言」について簡単にみてきた。
それでは、いったい「日本語」と「琉球方言」はどこが同じで、どこが違うのだろうか。
以下でそれぞれのルーツを解説していく。
「琉球方言」のルーツ
奈良時代までの古代の「日本語」の痕跡が多く残された言語であり、一説には10世紀頃に本土(九州地方が中心)の日本人が沖縄の島々に移動したため、独自の発達・変化をなしたとされている。
平安時代に起こった日本語の読み方の変化(ハ行転呼)が、琉球地域でも起こっているため、本土との言語的な繋がりが完全に断たれたわけではない。
また、ひらがなも積極的に使用し、15世紀に琉球王国が成立すると、士族の言葉として「首里方言」が作られ、琉球地域全域で統一的に使用されるようになった。
しかし、先述した通り、明治時代以降、本土の「標準語」の普及が進められ、「琉球方言」の話者は減っていった。
「日本語」のルーツ
日本語のルーツは様々な説があり、断定的なものはいまだに存在しない。
しかし、モンゴル系の「アルタイ語族説」や、韓国などと共通の祖語をもつ「朝鮮語同系説」、インド南部の言語と近いルーツをもつ「ドラヴィダ語族・タミル語説」といったものなど、数多くの説が存在する。
故に「日本語」は世界から孤立した言語と評されることが多く、「琉球方言」を別の言語としてみた時に、「日本語」と唯一同系統の言語が「琉球方言(諸語)」とみなされる。
「日本語」と「琉球方言」の文法的な違い
実は「琉球方言」には「日本語」にはないような、様々な文法上の違いがある。
例えば、現代の「日本語」からは失われてしまった動詞の終止形と連体形の区別や、助詞の「の」と「が」の使い分けなど、古代の「日本語」にみられた活用が「琉球方言」には残っている。
また、代名詞なども古代の「日本語」に由来するものが多く、同じ琉球であっても地域によって様々である。
他にも、これは読み方の話になるが、母音の「i」の前後の音が標準語と異なる場合が多く、「釘(kugi)」が「くじ(kuji)」に変化したり、「客(kyaku)」が「ちゃく(chaku)」に変化したりする。
このような違いから、標準語で生活している人にとっては聞き取って理解するのが難しいだろう。
まとめ
ここまで「琉球方言」についてみてきた。
果たして、これは「方言」と捉えるべきなのか、それとも「別の言語」と捉えるべきなのか、なかなか難しいテーマであることがわかっていただけたのではないか。
そして、そもそも私たちが使っている「日本語」すら、そのルーツがいまだに不明な点も、非常に興味深く面白い。
ぜひ、「日本語」の特徴や他の言語の特徴についても調べてみてほしい。