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【漫画考察】人気漫画の敵はなぜ〈人〉を喰らうのか?共通項とそれ以前の漫画についても紹介

編集・ライティング

シブヤ ユウキ

早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒業。雑誌の自主制作やクリエイターチームの結成などを行い、Web制作会社にディレクターとして入社。その後、フリーランスのディレクター・イラストレーターを経て、オウンドメディアのライター・コンテンツディレクターとなる。現在はマルチクリエイターとして活動中。

2010年代〜2020年代は〈人〉を喰らう敵と戦っていく漫画が主流であったかのように思う。もちろん多少の設定の違いこそあれど、多くの人気漫画が〈人〉を喰らう異形を相手にしていた。例えば、筆者が初めて〈人〉を喰らう漫画を本格的に読んだのは『東京喰種』である。その時代の前後から、同様のテーマで主人公たちが戦っていく漫画はブームを迎える。

この記事では、いったいなぜそのようなフォーマットの漫画が流行ったのか、そういった漫画のどこが面白いのかについて考えてみたい。

〈人〉を喰らう以前の漫画

〈人〉を喰らう敵が出てくる漫画や作品は以前にもあったかと思うが、その盛り上がりを見せているのはここ10年の話だと思う。それ以前の漫画の主流は、人同士の争いがメインだったはずだ。

もしくは、仮に人ではないにしても、人を残虐性に従って殺して回るような怪人・怪物が相手だったと思う。それでは、〈人〉を喰らう漫画以前の漫画はどのような特徴を持っているのか、簡単に攫っていきたい。

同じ人間同士、正義のぶつかり合い

これまでのバトル漫画の主流は、人と人との争いだ。特に、主人公サイドも敵キャラサイドもそれぞれに明確な「正義」があって、そのぶつかり合いが物語の軸になっていた。現実の戦争の縮図と言っても良い。

例えば、2000年代〜2010年代初頭に流行った『家庭教師ヒットマンREBORN!』では、マフィアの後継者争いに対して、主人公は誰かを傷つけるのではなく、自分の周りにいてくれる人を守るために拳を振るい、正統後継者を謳い、力強いマフィアを志す敵キャラと戦う。このように互いの正義と正義のぶつかり合いが、いつもバトル漫画の主軸にあり、それは人同士のものだった。

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『DEATH NOTE』で人同士の争いは終わった

2000年代、大流行し世間を騒がせたのが『DEATH NOTE』だ。主人公の夜神月は悪事を働く者は死んでしかるべきという思想のもと、DEATH NOTEをふるう。『DEATH NOTE』は特に正義と正義のぶつかり合いが激しく、一種の「思想の戦争」とも呼べる漫画だったと思う。

ただし、ここで注目したいのは『DEATH NOTE』では、人同士が物理的に直接戦うのではなく、あくまで頭脳を用いて理詰めするように相手を追い込んでいくところにある。ゆえに、この作品の登場をもって、人と人との正義感の勝負は、物理的な意味では終焉を迎えたのではないか。

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〈人〉を喰らう漫画

こうして2000年代〜2010年代初頭には、人vs人の正義の戦いは一段落ついた。そんな中現れたのが、『東京喰種』をはじめとする〈人〉を喰らう漫画だ。

『東京喰種』に始まる〈人〉を喰らうこととその葛藤

『東京喰種』は2011年から週刊ヤングジャンプで連載開始された作品。「喰種(グール)」という、人の姿をしながらも、人を食べないと生きていけない種族が蔓延る東京が舞台の漫画だ。主人公の金木研はとある事故をきっかけに喰種の臓器を移植され、「半喰種」となってしまう。

この漫画の面白いところは、「喰種」を完全な「悪」と決めつけ、抹殺を図る機関が登場し、「喰種」と争う一方で、「人」でもある主人公:金木研が、「人」と「喰種」の間に立とうとしたり、「喰種」である自分を受け入れることに葛藤したりと、〈人〉を喰らう存在を完全には「敵」として認識できていないところにある。

このように、『東京喰種』は〈人〉を喰らう敵が出てきた近年最初のヒット作であると考えられるが、まだそれを完全には敵として扱うわけではない「過渡期」的な作品なのかもしれない。

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『鬼滅の刃』で決定的となった勧善懲悪

その後、〈人〉を喰らう存在が明確に敵となって描かれたのは『鬼滅の刃』ではないかと思う。言わずもがな、『鬼滅の刃』は〈人〉を喰らう、夜にしか活動できない「鬼」が敵として主人公のもとに現れ、主人公は家族の敵討ちのためにその剣をふるうことになる。

言うなれば「現代版桃太郎」のような話で、道中、多くの仲間や師に出会い成長していく。世界的にもヒットした同作品だが、その要因は「鬼」という「人」とは違う、ある種概念的な「世界共通の敵」を設定したおかげで、あらゆる文化に通じるストーリーになったからなのではないだろうか。

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そもそも〈人〉を喰らうことはタブーなのか

さて、少し立ち返って考えてみると、そもそも〈人〉を喰らう存在を「悪」として描くことは正しいのだろうか。〈人〉も生きていく上で、多くの動物を殺し、食べている。その殺される対象は〈人〉になっただけで、勧善懲悪的な物語に一変するのはなんとも不思議なことではないか、と筆者は思う。

まとめ

いかがだっただろうか。『東京喰種』や『鬼滅の刃』以外にも『約束のネバーランド』や『進撃の巨人』がそれに該当する作品だろう。こうした作品はおそらく今後も出てくるかとは思うが、そういった作品の根底には「人こそが最上位の種である」という意識が透けて見えるような気もする。しかし、今までの「人vs人」の構図よりも、より禍々しく、読者の予想を裏切るような展開を作れる設定だと思うので、〈人〉を喰らうものとのバトル漫画の今後には期待したい。

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