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マジョリティ視点で見る「性的マイノリティ」の身近さとジェンダーの多様性。【ジャンプ漫画『青のフラッグ』】

編集・ライティング

シブヤ ユウキ

早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒業。雑誌の自主制作やクリエイターチームの結成などを行い、Web制作会社にディレクターとして入社。その後、フリーランスのディレクター・イラストレーターを経て、オウンドメディアのライター・コンテンツディレクターとなる。現在はマルチクリエイターとして活動中。

とある調査によると、LGBTに代表される「性的マイノリティ」に属している人の割合は8.9%と言われている。これは、学校の40人クラスでいうと3〜4人いることになる。それくらい、身近な存在なのだ。

今回取り上げる『青のフラッグ』という漫画にも「性的マイノリティ」のキャラクターたちが出てくる。いかに彼ら彼女らが、マジョリティにとって身近であり、また、その存在を通して「男/女らしさ」を考え直すきっかけになるか、考えさせてくれる作品である。

そもそも『青のフラッグ』ってどういう漫画?

そもそも、この記事で取り上げる『青のフラッグ』とはどのような漫画なのか、簡単に紹介したい。

『青のフラッグ』は2017年から2020年にかけて「少年ジャンプ+」にて連載された作品で、高校生の恋愛を軸にストーリーが構成されている。

特筆すべきなのは、男女の恋愛だけにとどまらず、男性同士、女性同士の恋愛感情も作中で描いていることだ。

それまでの「ジャンプ漫画」ではほとんど例のない、時代に即した挑戦的な作品であると言えるだろう。

幼馴染が同性愛者だった

本作の主人公は、ごくごく“普通“の男子高校生である太一。

幼馴染で人気者のトーマと共に、高校生活を送る。

太一の元にトーマを好きだというヒロインの二葉が接近し、物語が動き始める。

恋心と友情のどちらを優先するか葛藤する

「ゲイ」であるトーマと同様に、二葉の親友の真澄も「レズビアン」であることが匂わされており、どうして「マイノリティ」である自分たちばかり、本当の気持ちを押し殺して暮らしていかなければいけないのか、と悩んでいる。

また、仮に気持ちを相手に伝えたところで、相手は「ストレート(異性愛者)」なのだから、せっかくの友情関係が崩れてしまうのではないかと危惧する。

実際、作中でもトーマは勇気を振り絞って太一への想いを告白したが、すぐさま「ごめんな」と付け足して謝ってしまっていた。

これは、「今まで、ストレートを装ってきてごめんな」という意味も含まれているのではないか。

トーマ本人からすれば、親友という距離感も大切にしたかったし、それが壊れるのも悲しいのだろう。

「性的マイノリティ」というアイデンティティ

「自由に生きたい」というのは、トーマや真澄のような「性的マイノリティ」のキャラクターがうちに秘めている思いとして描かれている。

例えばトーマであれば、高校卒業後の進路に関して、周囲に迷惑をかけたくないという思いからか、仕事に就くと話す。

一方、真澄は大学進学を目指すが、「性的マイノリティ」は「特殊」な存在であると自己分析しており、「ストレート」の女子生徒と口論になるシーンがある。

そこでは、女子生徒は「同じじゃなかったら何?」が詰め寄ってきており、「性的マイノリティ」が「ストレート」と違う部分が多くあろうとも、寄り添って生きていけるという思いが込められているように読める。

このように「性的マイノリティ」はアイデンティティにもなりうるが、必ずしもそれを「特別」なものとして見ないで、「個性」のひとつくらいの感覚で「ストレート」とも共有していこうと、登場人物たちは動いていく。

“普通”に生きたいとも願う

「性的マイノリティ」がアイデンティティのひとつであるのと同時に、「ストレート」のように“普通”の生き方に憧れると、真澄は語る。

マジョリティと同じ生き方をしている方が、共感できる事柄が多いし、そもそも「性的マイノリティ」の方が生きていく上でコストが高いとも語る。

この「コスト」というのは、前述したように、同性同士の友情関係を壊したくないがために自分の気持ちを押し殺したり、自分の性のあり方をオープンにして周りから噂話をされたりするのを避けたりなど、気にしなければいけないことが多すぎるという意味だ。

こういった悩みを「性的マイノリティ」に抱かせてしまっているのは、社会の構造がマジョリティ側にとって生きやすいように出来上がっているからだろう。

トーマの同性愛に対してキレるという、理不尽なキャラクターも登場したが、まだまだ世間の認識は、そのように「性的マイノリティ」を拒絶しているのではないか。

そのような拒絶が減り、血液型を聞くくらいのラフな感覚で自分の性についても話せるようになると、トーマや真澄のような葛藤はなくなるかもしれない。

「男/女らしさ」ってなに?

『青のフラッグ』では、単に同性愛のキャラクターが出てくるだけにとどまらず、「男らしさ」や「女らしさ」といったジェンダーについても言及している。

いかで少しみていこう。

「男女」の友情は成り立つのか

トーマの同性愛が発覚したことを受けて、それに対して怒り、喧嘩になったキャラクターがいる。

太一はそのキャラクターや女子生徒たちとトーマのことについて話しに行くシーンがあるのだが、そこで取り沙汰されていたのが「男女の友情」だ。

喧嘩になったキャラクターは「男女の友情は男同士の友情とは違う」「相手が女なら全員少なからず恋愛対象に入る可能性を含んで接してしまう」と持論を述べた。

また、「男同士でとか、意味がわからねぇ」と同性愛についても嫌悪を示している。

それに対して、女子生徒たちは「人を好きになる感情は自分でコントロールできるものでもないのだから、それが異性だろうが同性だろうが関係ないでしょ」といった主旨の発言をして返している。

それを受けて、個人差の範疇を超えた「男女の違い」を持ち出し「男女の友情」は根本的には成立しないのではないかと訴えかけ、口論になる。

このシーンで重要なのは、性のあり方を「男女」の2つにきっぱり分けてしまっていることにある。

「男/女らしさ」も確かに存在するかもしれないが、もっと性をグラデーションで見ることができれば、この口論ももう一歩前進できたのではないだろうか。

「性的マイノリティ」は必ず身近にいる

ここまで、『青のフラッグ』を軸にジェンダーや同性愛についてみてきた。

『青のフラッグ』では、主人公の太一の幼馴染トーマがゲイであったり、ヒロインの二葉の親友である真澄がレズビアンだったりと、身近に「性的マイノリティ」が存在した。

冒頭で述べた通り、「性的マイノリティ」に該当する人は8.9%程度いると言われているので、あなたの周りにも必ずいることだろう。

しかし、だからといって無理に詮索してはいけない。性のあり方は人によっては非常にセンシティブなものなので、もし誰かに打ち明けられたとしても口外するのはやめておこう。

もしもクラスメイトが「性的マイノリティ」だったら?

特に「ストレート」の人にとって、クラスメイトに「性的マイノリティ」がいたら、と思うと驚きかもしれない。

筆者自身も、学生時代は関わる人に「性的マイノリティ」がいなかったので、『青のフラッグ』を読んで衝撃的だった。

もしも自分が学生時代の時に仲良くしていた男の子が「ゲイ」だったら、と思うと、何も知識のなかった自分はどのような対応を取るのだろうと考えてしまう。

『青のフラッグ』はこのような性のあり方、接し方について考えさせてくれる漫画であり、その入り口に最適な作品だろう。

あなただったら、クラスメイトが「性的マイノリティ」であると打ち明けられたらどのような反応をするだろうか。

学生の方も、そうでない方も一度イメージしておくと、グッと世界を見る視野が広がるだろう。

まとめ

『青のフラッグ』は「ジャンプ漫画」の中でもかなり特異なジャンルの漫画で、様々なことを学ばせてくれる漫画作品だ。

特にこの漫画では同性愛者を主軸に置いているが、それを「ストレート」の主人公の視点から描いてくれることで、マジョリティである「ストレート」の読者にとって、ジェンダーやLGBTQ+を考える上で非常に良い参考書になるだろう。

筆者も、この作品を読み、よりリアルに「性的マイノリティ」の存在を意識したし、自分の性のあり方についても改めて考え直してみたりもした。この作品を通じて、「打ち明けられていないだけで、本当は性的マイノリティである」という人が身近にいるかもしれないということを知ってほしい。

この記事で『青のフラッグ』に興味が出た人は、ぜひ手に取ってみて欲しい。
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出典:青のフラッグ(1)-集英社

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