INTERVIEWクリエイターインタビュー
【インタビュー】ゲーム制作会社のUIデザイナーkazuki氏が語る美大生時代のコト
早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系卒業。雑誌の自主制作やクリエイターチームの結成などを行い、Web制作会社にディレクターとして入社。その後、フリーランスのディレクター・イラストレーターを経て、オウンドメディアのライター・コンテンツディレクターとなる。現在はマルチクリエイターとして活動中。
今回は、実際にゲーム制作会社でUIデザイナーとして働いているkazuki氏に、「なぜUIデザイナーになったのか」「どのような経験が今の仕事に結びついているのか」などについて、インタビューを行った。
この記事を読むことで、美大での経験や学びについて具体的なイメージを持つことができるだろう。
UIデザイナー
kazuki
多摩美術大学総合デザイン学科卒業 / ゲーム制作会社UIデザイナー
https://kazukikobayashi.com/
目次
なぜ「美大」という選択肢を選んだのか
ー 本日はお時間いただきありがとうございます。私とkazuki氏は高校以来の仲ですが、こうして改めて進路の話をするのは珍しいかもしれないですね。
そうですね〜。美大を意識したのは、高校の美術の授業で描いたデッサンをシブヤ君に褒めてもらったことがきっかけの1つです。高校2年生だったと思いますが、それまでは理系の進路を考えてました。
ー お、それは嬉しいですね。他に何かきっかけや影響はあったりしますか?
『謎解きはディナーのあとで』の装画などで有名な中村裕介さんのイラストが好きだったことも影響しています。小説を読む前に装画で期待が膨らむ感じや、読み終わった後に装画を見返して世界観に浸れるのが好きでイラストレーターに憧れがありました。
そこから、雑誌の特集で水野学さんや佐藤可士和さんを知って、デザイナーにも興味を持ちました。くまもんやユニクロなど身近で広く認知されるものに関われることや、デザインをする過程から感じられる美意識をとても魅力的に感じました。
学びたいとなったのは、絵を描けることや美意識があるというのは身体知な印象があったからです。部活動でバスケや野球をやっていて、体が動きを覚えていくような感覚が好きでした。その感覚が仕事をしながら磨かれていくのは楽しそうというイメージを持っていたと思います。
ー なるほど、具体的なイメージを先に描いておきながら、それに当てはまるように「美大」という進路を選んだんですね。
美大時代にはどのようなことを学んだのか
ー 話を美大時代に進めたいと思います。kazukiさんは現役で多摩美術大学へ進学しましたが、それから今のゲーム制作会社に入社するまでの4年間に、どのようなことを学びましたか?印象に残っていることを教えてください。
自分は「統合デザイン学科」というデザイン方面の学科でした。統合デザインという名前の通り、興味のあったグラフィックデザイン以外にもプロダクトデザインやインターフェースというデザインする上で必要な、観察することや伝える技術について学べる授業がありました。
な最初はグラフィックデザインやイラストレーションの興味が強かったのですが、教授である中村勇吾さんの仕事や同級生の作品に刺激を受けて、プログラミングでの作品制作に惹かれました。
印象に残ったこととしては、大学3年生の時の芸術祭で展示した体験ですかね。授業やオープンキャンパスなどでも展示や設営の機会はあったのですが、それらの経験を活かして様々なことを自分達で実践していくのが楽しかったです。多くの学外の方に作品を触ってもらえた機会でもあり、とても印象に残っています。
参考 : 2018芸祭展示 「A∩B展」 | KAZUKI KOBAYASHI | 小林 和貴
ー このような作品は、まさに誰が見ても理解できるような「共通認識」を基盤にしながらも、チープではない面白さがありますね。
ありがとうございます。展示した作品は、元々「記号をつくる」という課題で文字を回転させたところから、プログラムと絡めて小作品を制作したものでした。小作品を同級生や教授に見てもらいながら、どこを面白いと思ってるのか/その魅力はどうやって体験してもらったら伝わるのかを考えるプロセスも楽しく、印象に残っています。
参考 : Angou
ー 確かに、著名でかつ素晴らしい作品を制作している現役のデザイナーさんたちにみてもらえるのは「美大生」ならではの貴重な経験ですよね。
美大時代に影響を受けた本や漫画、映画などのカルチャーは何か
ー 美大という環境や教授陣から多大な影響を受けたとは思いますが、そこから少し外れて、本や漫画、映画などで影響を与えたものは何かありますか?
本でいうと原研哉さんの『白百』ですかね。骨、雪、おにぎりなど、著者が「白」と感じる現象が百篇書かれたものです。元々小説が好きだったのですが、著者の目線や感覚を楽しめるエッセイを好きになったきっかけの一冊です。
エッセイ繋がりで、漫画だと東村アキコさんの『かくかくしかじか』にも影響を受けたと思います。この本は予備校の先生を軸にして、美大受験や美大のことが描かれていて、自分と重ねて読んでしまう部分も多く印象に残っています。
そういった本の影響で、作者の姿勢や佇まいを意識した好みがでてきました。
参考 : 『白百』(原研哉)
参考 : 東村アキコ『かくかくしかじか』インタビュー【後編】 ヒット作連発の人気漫画家がなんでそこまで!?人生むきだしの自伝的マンガ堂々完結!!
ー そうだったんですね。デザインはビジュアルイメージが強い印象だったので、漫画や映画などの視覚的な表現に引っ張られることもあるのではないかと思っていました。他に何か影響を受けたものはありますか?
ビジュアルイメージはMVなどから影響を受けることが多かったです。MVの中でも『imai / Fly feat.79,中村佳穂』や『Cluster A』などから特に影響を受けてると思います。
ー ということは、いわゆるエンタメ的なサブカルチャーよりかは、デザイン哲学やそのデザイナーさんたち、または同じ学生の仲間からの反応、そしてプログラミング系のカルチャーの方が影響を与えたんですね。
そうですね。みんなが制作をしていてフィードバックをしあえる美大という環境、そこからの知識やカルチャーの影響が大きかったです。
美大時代の4年間はどのようなものだったか
ー それでは、kazukiさんにとって、美大で過ごした4年間はどのような時間でしたか?
前の質問でも少し触れましたが、とにかく手を動かしてつくる、そしてそれに対して反応をもらうのが楽しかった4年間でした。
教授からのフィードバックや展示での反応を通して、自分の作品の面白みは何か、それをどのようなインタラクションで体験してもらえるか、などを考える機会が多かったのは楽しかったです。
実際に展示に触れて自分の作品を楽しんでくれた姿を見たことが、ゲームのUIデザイナーという職業を選んだきっかけにもなっています。今の仕事でも、自分の制作したものにフィードバックをもらったり、相手のものにフィードバックをするのは変わらず嬉しいし、楽しいです。
ー 素敵で実りある4年間ですね。常に前のめりに、楽しんで制作を続けてきたからこそ、今もデザインを仕事にできているんだろうな、とお話を伺っていて思いました。
これから「美大」を志す人に向けて
ー 最後に、これから「美大」という進路を選択しようと思っている方に向けてメッセージをお願いします。
受験生の時を思い返すと、もっと興味をもった作品/分野を広げる、掘り下げることができていたらなと思います。いいなと思う作品の何がよいのか考える、類する作品やジャンルを知る、それを自分のデッサンや色彩構成に反映させることです。受験時代だけでなく今も思っていて、美大での作品制作やデザイナーとしての仕事もそこが作品のクオリティや面白さに繋がってくると感じています。
受験生の時には、デッサンってデザインの仕事に役立つのか?上手くなることは楽しいけど美大での作品制作は全然違うんじゃないか?と思うこともありましたが、興味を掘り下げながら手を動かすことは様々な作品制作の基礎になることだと今は思います。なので、興味をもった作品/分野を広げる、掘り下げることを受験の頃から意識して制作をすることは、美大に入ってからどの分野に進んでも支えになると思います。
他には、進路を考える時にあまり思い詰めすぎないことですね。
僕は将来的なことを考えると手が止まるタイプなので、「今」の自分の興味に素直に向き合って制作していました。
ただ、美大は医学部などについで学費が高く、お金のかかるものですし、親にお金を出してもらう立場として、最低限、自分の興味や何をしたいのかを説明できるくらいには掘り下げをしておけると良いなと思います。
ー ありがとうございます。確かに、進学は援助あってのものですから、美大に限らずどの学校に進む場合でもしっかりと自分の意思や考えを口にできると良いですね。ただ、将来設計だけで終わらせずに、しっかりと作品を作り上げていくことが受験期やその後の4年間を無駄にしない過ごし方なのかもしれませんね。
まとめ
いかがだっただろうか。美大といえば「アーティスト」や「画家」のイメージも強いかもしれないが、現在は多くの大学でデザインをあらゆる角度から学べるような学科が増えている。
その中でも、多摩美術大学の総合デザイン学科は著名な教授がゼミを担当しており、そこでは高い技術をもった学生たちが集い、互いに作品に対して意見を交わしてる。
このような能動的な学びこそ、卒業後も「デザイナー」として第一線で活躍する素地を作っているのだ。
そこには、苦しさや辛さもあるかもしれないが、ぜひ、自分の興味・やりたいことを自分で掘り下げて言葉にできるようにして、明確な動機をもって「美大」という道を歩んでもらいたい。